医療情報ネットワークへの期待

岩国市医療センター医師会病院
村 上 卓 夫

 

■ 医療における情報ネットワークの必要性

 高度の研究・診療を支える全国的、あるいは世界的規模のネットワークが必要であり、情報ネットワークとしてのインターネットは比較的一般的になっており、日本全国的に張り巡らされた腎移植のためのネットワークや、角膜移植のためのアイバンク、骨髄バンクなどがある。
 インターネットを用いれば24時間いつでも世界最新の医学情報にアクセスでき、さらにはその道の専門家へのコンサルテーションも可能である。
このようなネットワークは学閥や出身校などにとらわれない自由闊達な知識や技術の交換の場として今後更に発達すると思われる。
医療ネットワークは医療の包括化、多様化に備え医療の質を維持するために周辺領域に拡大するネットワークでなくてはならない。

■ 医療情報サービスとしてのパソコン通信およびインターネット
 現時点では、公共性のある情報はインターネットで、機密性の必要な場合は、パソコン通信でということになると思われる。
今後インターネット上でのセキュリティの問題は検討され、いずれ一本化されると思われる。
医療情報の内、患者個人もしくは、病院運営などの院内の情報のやり取りする場合は、パソコン通信で行い、病院の広報活動や健康管理など院外に存在する情報は、インターネットで行うことが現在では望ましいと思われる。

 このようにマルチメディアの利用は、データを双方向に利用できることから、いままで困難であった診療情報提供書や報告書のやり取りから、院外広報活動、健康保持、予防医学に至るまで、広い範囲で有用である。

■ 医療情報ネットワークとしての画像転送システム
1)画像転送システムについて
 情報技術の進歩により、現在はテレラジオロジー、テレメディスンと言う言葉が一般的に用いられている。画像転送システムはテレメディスンネットワークを利用した遠隔診療支援システムとして、実際の医療現場で普及しつつある。
画像転送を通して外科専門医と診断治療の在り方について意見交換することは、ダブルチェックという医療界にあまり馴染まないフェイルセイフシステムが働くことになる。
すなわち、院内診断、院内治療と院外診断、院外治療とが連携することになり、これは病病連携によるテレメディスンシステムが今後の地域医療体制に新しい姿を生み出す可能性を示している。

2)患者のふるい分けによる、病院間の機能分担と連携
 頭部外傷や、腹部外傷などの初期診断治療に必要不可欠な検査法であるCT装置が普及し、一次救急病院ではCT検査が一般的に行われるようになったが、専門医がいない場合、診断や治療方針の決定、さらには手術の出来る専門病院への転送の必要性や時期などに苦慮する場合も少なくない。
 また外科的手術の必要のない患者の場合、わざわざ遠隔地へ搬送することなく、その地域の施設で治療することが望ましいのは言うまでもない。
 そこで、CT画像をいち早く専門医のいる施設へ伝送して、双方の医師がディスカッションできるようなシステムがあれば、手術が必要か否かのふるい分けに役立ち、病院間の機能分担と機能連携が向上すると思われる。

3)高度な医療を求める患者のニーズに応える
 現代は情報が平均化している時代で、たとえ山奥の過疎地でも、テレビで最新のニュースを知ることが出来る。
しかし医療は手作りであることから、そこにそういう医療がなければサービスを受けることが出来ない。
 どこに住んでいようと、高度な医療を受けたいという患者のニーズは高まっている。もし外科医がいなくても、画像転送システムがホットラインとなって、一定水準の外科医療が受けられると言うことであれば、地域住民の中に医療に対する信頼と安心感が生まれる。

■ 画像転送システムの利点
1)遠隔地であっても、電話によってCT画像および臨床症状等を送ることが出来、患者の状態をより早く、正確に把握し、医師間で十分なディスカッションが可能である。
2)送信側病院では、画像診断の援助、手術適応の有無、転送の必要性、治療方針の決定など、専門医からの助言を24時間いつでも受けることが出来る。
3)地域住民にとっては、いつどこで倒れても一定水準の外科的な医療を受けることができ、地域医療への信頼と安心感につながる。
4)受信側病院においては、病名だけでなく、臨床像、CT所見により重症度まで明確になるので、緊急手術を含めた受け入れ状態の準備をいち早く行うことが可能である。
5)不必要な転送が減り、一次病院と専門病院との機能分担がいっそう促進され、円滑な連携医療に役立つと思われる。
6)放射線科が遠隔地で続影する一般的なテレラジオグラフィーと異なり、症例について送信側の医師と受信側の専門医とがリアルタイムで診断、治療方針を十分にディスカッションできることから、医療技術のレベルアップにつながる。
デメリット
 あくまでもCT画像の転送は医療情報の一部であり、患者全ての情報を得ることはできないので、その利用はコンサルテーションの域を越えるものではない。

■ ネットワーク運営上のポイント
 送信側、受信側双方の施設が、相手先の病院の治療成績、看護内容など、医療レベルについてよく知っておくことである。
人と人のネットワークが重要である。施設間の医師同士の日頃の密接な連携と信頼を基盤とした人的なネットワークが欠かせないと思われる。

現在医療に関しては、専門性が進んだことにより、医師の遍在と専門医の不足を招いているのが実状である。その意味でも専門医をより有効に活用するシステムの必要性がますます高まってくるものと思われる。
病院間における専門医療の不足分を補完し合うという機能は21世紀における効率的医療供給にとって大変重要な機能を果たすことは間違いがないと思われる。

■ テレメディスンネットワークの今後としては
1)ネットワーク各病院における専門外来の曜日、日時、専門医名、専門医の経歴のどの定期通信など
2)ネットワーク各病院における共通の電子カルテによる検査データー、各種画像の保存、ICカードの発行など
3)ネットワーク各病院におけるテレビカンファレンス
4)救急医療システムなど、他の情報通信システムとの接続
などがあり
将来的には、テレメディスンネットワークは今後の地域医療体制の在り方を大きく変えてしまうほどのインパクトを秘めている。

■ ネットワーク化進展の行き着く先は?
1)拡大された情報空間の活用:遠隔会議、講演会中継、TV会議、症例検討会、病理検討会、データーベースの共同開発
2)遠隔診療、テレコンサルテーション(テレラジオロジー、テレパソコロジーなど)
3)教育カリキュラム、受講単位の相互認定
4)人材の動的な交流
5)大型プロジェクトの協調的支援
6)地域医療・生涯教育への大いなる貢献
7)医師同士の交流増大など
 これらの実用化に際しての技術的あるいは運用上の問題(経済的、制度的、法律的、プライバシー保護問題など)を整理し、解決策を講じる必要があると思われる。

このような情報交流の環境が多くの基幹病院間で整備され、その上に新しい医学上の分化が形成されるとき、真の意味で地域に対する病院ボーダレスが達成されると思われる。
それらはVirtual Hospitalなどとも呼び得る空間的な制約を解き放された情報空間の結合による新しい世界であり、地域医療社会との情報交換システムの革命といえるものになると思われる。

マルチメディアネットワークは情報交流のための空間的垣根を取り払い、個人が知的活動を行うための情報空間を飛躍的に拡大する。

各病院間(大学をも含め)をマルチメディアネットワークで結び、情報発信基地としても開放すれば、医学・医療分野あるいは一般社会に計り知れない利益と恩恵をもたらすことが予想される。

■ とくに最近のインターネットについての情報から
集団的教育の現場におけるインターネット接続は徐々に進んでいるが、その多くは接続のための電話料負担や回線の貧弱さがネックになって個人個人が使いこなすまでには至っていないのが現状であろう。
それには光ファイバー回線か、通信衛星回線、CATV回線、高速無線回線、通常電話回線を高速に変えるADSLモデムなどを利用する。これら回線はいずれも通常のデジタル回線(ISDN)(---現在はISDNが利用されているがISDNはせいぜい2台しか同時に接続が出来ずしかも電話代がかさむのでせいぜい一日に2時間程度しか利用を制限せざるを得ないのが現状である----)の25倍の容量(1.5メガ)以上という高速回線であるので、20台から40台のパソコンが同時にインターネットにアクセスできしかも何時間使っても通信料は無料(さしあたって3年間)というシステムが検討されている。
またインターネット接続は各地域に設けるネットワークセンターから専用線で東京の通信・放送機構の中央ネットワークセンターを経由して行われるので、プロバイダー接続料も不要である。有害情報への対応も地域または中央で一括して行える。
高速回線を多数のパソコンで同時利用するにはそれぞれの施設内ネットワーク(LAN)が必要になり、また、活用するには教育の経験も必要になる。
 神奈川県相模原市では文部省の図書館モデル事業の指定を受け、市内80の小中学校の図書室からのインターネット接続を今年度中に行うという。ここではISDNの2倍速いOCN回線の常時接続の予定とのことである。

■ アメリカでのオンライン児童保護法(COPA)
子供に有害な内容をサイトに載せる場合には、子供がアクセス出来ないようクレジットカードなで年齢確認をすることをサイトの運営者に求めるもので違反すると罰金が課せられる。対象はポルノ画像でビジネスをする商用サイトに限ってはいるようである。