「長寿社会」における
        ネットワークへの期待


                         都市経営コンサルタント
                               元 島 祥 次

● 高齢化社会から「長寿社会」へ

 21世紀への諸潮流の中で、確実に到来するのは高齢化社会である。
 高齢者といわれる65才以上の人口比率は、現在の15.6%から2025年には27.4%、2050年には32.3%になると推定される。(人口問題研究所「日本の将来推計人口」:97年1月) この事実は、欧米諸国もかって経験しなかった超スピードで日本が高齢化社会へ突入したことを意味する。
 高齢者の比率が14%になるまでを「高齢化社会」というとすれば、現在はすでに、そのハードルを越え、「高齢社会」と呼ぶべきだろう。
 一方、家族形態の変化、女性の社会進出、扶養意識の変化などにより、高齢者を取り巻く環境は、一層厳しくなりつつある。初期高齢化段階では、高齢者を粗大ゴミ、「公害」の一種のように考えるむきもあった。今日では「お世話」の対象、増大を不可避とする社会負担の対象と捉えられているようだ。 
 しかし、悲観的になるのは止めよう。人間が年老いるまで心身ともに健康で、しあわせに生きれる理想社会、「長寿社会」をめざし、高齢者は勿論、国民・国家あげて本格的な取り組みをスタートさせようではないか。
 すでに政府は、94年12月に「新ゴールドプラン」を策定、全国の自治体も「老人保健福祉計画」を策定し、制度的、政策的には徐々に成果を上げているようにみえる。
 だが、現実の運用・運営の面では、“日暮れて道遠し”の感がある。
 この課題を解決するためには、長寿社会の各フェーズに対応した施策、新しい「ネットワーク社会」の構築、福祉住宅・福祉機器・医療機器の開発、関係者や国民の意識改革などが必要である。さらに、高齢者を新しい「社会資源」と位置付け、高齢者自身を福祉や価値観創造の資源として活用する思想を重視したい。(岡本祐三「高齢者医療と福祉」・岩波書店)

● 長寿社会の各フェーズ

 一口に、長寿社会といってもいくつかのフェーズがある。就業、生活・遊行、保健、福祉サービス受給、医療、生きがいの6つのフェーズである。
 まず、定年退職後、多くの人が再就職を望んでいる現状に鑑み、就業機会の提供と再雇用の場の確保を強化したい。高齢者能力開発センターやシルバー人材センターを充実し、活用を促進すべきである。
 老後の生活と遊行を保障する公的年金・退職金や公的扶助の整備も必要である。特に、動ける間に観光旅行などができるゆとりと環境整備が求められる。
 疾病の予防と保健の政策強化も重要である。特に、その教育、指導、PRは一層徹底すべきである。
 医療の面では、緊急時に対応できる医療情報の提供と措置、病院の受入体制、障害発生直後のリハビリ体制、訪問看護を充実してほしい。
 福祉サービスの面では、すでに施設介護、在宅介護の諸施策が展開されているが、目標達成に一層の努力を要する。それには、有償ボランティア、老人間の相互扶助、介護者のケア休暇などを弾力的に活用することが望まれる。
 生きがい対策としては、生産・学習・趣味・奉仕・スポーツなどの場と機会の提供を充実すべきである。また、高齢者の知恵や技術を教育人材銀行に登録し、世代間の交流に寄与させたい。
 さらに、長寿社会にふさわしい環境や施設の整備も肝要である。高齢者を考慮した住宅・住環境、道路、公共施設の整備や高齢者用の設備・機器の設置・開発も不可欠である。

● 各フエーズに期待されるネットワークの構築

 こうした各フェーズに対応する制度、政策、戦略、組織、予算などの整備・充実は勿論であるが、今回は、人的・物的な「ネットワークの構築」を提言する。長寿社会は、しあわせを交流させる「ネットワーク社会」であらねばならないと考えるからである。

(1) インフォメーション・ネットワーク
 このツールは、インターネット、パソコン通信など「情報通信機器」であり、長寿社会のすべてのフェーズに対応できる。求人求職、人材登録、観光旅行、保健、医療、福祉サービス、生きがい対策などの各分野で、情報の受発信が可能であり、うまく活用すれば効果は抜群である。 
 だれが、どのフェーズで、なにを、どう活用するかが今後の課題である。

(2) サロン・ネットワーク
 このツールは、「顔」と「場」である。サロン風の小グループで、フェース・トゥー・フェースのフレンドリーな交流の空間を形成する。 世代間交流、異人種交流、異業種交流、“未力人間”交流などの人的ネットワークである。企業のQC、ZDなど小グループ活動が評価された以上に、損得を越えた“ホンネでナマ”の情報交換ができる。知恵を出し合う場合は勿論、生きがい対策、遊行、医療などのフェーズに有効である。

(3) サービス・ネットワーク
 在宅の要介護者・要看護者をとりまく人々の相談・協議のネットワークで、福祉、医療のフェーズで有効である。まず、在宅の要援護者を対象に小地域レベルで、介護人、福祉事務所職員、ホームヘルパー、民生委員、近隣住民、ボランティア、保健婦などの参画する「町内援護ネットワーク協議会」をつくる。そこで、なにが要援護者にとって必要か、サービスや環境は妥当かを徹底討議する。
 コミュニティレベルや市町村レベルでその拡大協議会を開設することも肝要である。

(4) ハード・ネットワーク
 道路網・海路網・空路網・通信網などの交通通信基盤ネットワークの整備である。人的・物的交流に不可欠なことは、言うまでもない。高齢者の生きがい対策、保健・福祉・医療サービスにも重要なものである。国の新しい全国総合開発計画でも「多軸型国土構造」や「地域連携軸」といったあらたなネットワーク概念が導入されている。
 さらに、自然・歴史・文化等のビュー・ポイントをつなぐ◯◯回廊、◯◯の道といったソフトな施策を組み合わせて、高齢者を誘導し、生きがい対策の一助とすることも必要であろう。

● 利用者から発信者・主体者へ

 今年3月に策定された山口県の長期計画「やまぐち未来デザイン21」の重点戦略をみると、ネットワーク及び類似用語の多さに驚く。「水と緑のネットワーク、ふるさと交流のネットワーク、国際共同交流ネットワーク、総合交通ネットワーク、情報スーパーハイウェイ、文化回廊、ジョイフルロード」と続出する。県がいかにネットワークを重視し、施策展開しようとしているか、一目瞭然である。
 しかし、与えられる行政ネットワークや制度・環境を利用するだけでなく、情報の発信者や主体者になり、変革する意志やマインドをもつことが、より重要ではないか。
 自ら発信者として情報通信機器を活用し、自ら主体的に福祉活動に参画し、自らサロンの主宰者となるなど意欲的、積極的な活動が要請される。そこに、おのずから情報が集まり、信頼を得、重層的なネットワークが築かれる。
 来たるべき長寿社会は、主体的高齢者による人間的・効率的・重層的な福祉社会、それを可能にする「ネットワーク社会」でなければならないと確信する。


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