DCTの思い出
松屋産業株式会社
代表取締役 松塚 展門
■ 未来の建設の姿を車の街デトロイトで見た。
デトロイトセンターツール(DCT)と言う会社は、私にとって大変参考になった。その理由は、この会社が主として、自動車の車体(アンダーボディー)に関する会社ではあるが、その全ての手法は完全に、建設の世界にアレンジして見ることが出来たからである。
従って、いささか場違いな見出しを付けた理由も、お分かり戴けると思う。そもそも視察とはこのように展開されてこそ意義のあることと思った。有意義な訪問先選定に感謝したい。
■ 先端のシュミレーション
自動車の企画開発から、実施生産までには通常数年が必要とされていた。しかし近年、コンピュータ利用の飛躍的な向上によって、それが二年弱に縮められたと言うことであったが、DCTを訪問してその理由と実体がよく分かった。
DCTの急激な飛躍は、アメリカの大手自動車会社の、思い切ったアウトソーシングに支えられたと言う事実は確かにある。しかしDCTは、小規模ながら、大手の新車の企画開発製造に極めて深く関わっている。それは、ただ単にプロジェクトに関わりを持つと言う段階から一歩踏み込んでいる。すなわち、主導権を握った、専門的なコンサルタント活動が企画から製造にまでに及んでいる。さらに、実際の製造ラインを作って納め、実際の製造立ち上げまでの責任を果たしている。
この中では、製造中の人的ミスの発生を極力押さえる為のあらゆるシミュレーションがなされており、そのミスの98%までをも撲滅出来ると言い切った。まさに、先端のシュミレーション技術である。
■ 1:10:100の法則
彼らが私の質問に対して執拗に繰り返した言葉がある。それは、『計画段階でのミスの事前チェックの完全実施』である。そしてこれについては、具体的な数字をあげて分かりやすい説明をした。もちろん、数字の詳細はともかく彼らの品質管理とコスト意識の具体性を明確に示すものとして、印象に強く残った。それは、『1:10:100の法則』である。よく、労働安全の話ではハインリッヒの法則と言うものを聞かされるが、その比率とは多少違う。しかし、心の置き方は、ほぼ同じである。
この法則を以下に説明する。■設計、企画段階における、エンジニアの些細なミスは、この段階での対応ならば1$もあれば完全に修復できる。■しかし、そのミスが工場の段階まで残っていると、それを修復するには10$のコストになる。■さらに、そのミスもつぶし損ねてユーザーの所にまで渡ってしまうと、たちまち、これは100$のミスとなってしまう。これは、あくまで比率の問題である。同じものが大量生産される自動車の分野では、もっと大きなダメージであろうと思った。何はともあれ、この考え方は、建設の世界でも全く同様なことが言える。
■ バーチャルとリアルの一体化
最初の企画設計の段階と、工場生産の企画段階の双方に関わり、しかも、実際の製造ラインを造るという手法は、建設の設計施工というスタイルに似ている。設計と言う夢のバーチャル化と、施工と言う夢のリアル化が一体となった『もの造り』は、私の求める理想の形態である。多くが1品生産の建設だからこそ、バーチャルとリアルの一体化が求められている。
データベースに立脚したこのような手法が、建設において実現出来れば、これは革命である。未来の建設のあり方を、車の街デトロイトで見た。